大阪地方裁判所 平成10年(ワ)3445号 判決 1999年1月22日
原告
八木三郎
ほか一名
被告
根岸秀明
主文
一 被告は、原告八木三郎に対し、金四三七万二四七五円及びこれに対する平成八年七月二日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。
二 被告は、原告中西美子に対し、金四三七万二四七五円及びこれに対する平成八年七月二日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。
三 原告らの被告に対するその余の請求をいずれも棄却する。
四 訴訟費用は、これを一〇分し、その五を原告らの負担とし、その五を被告の負担とする。
五 この判決は、第一項及び第二項に限り、仮に執行することができる。
事実及び理由
第一請求
一 被告は、原告八木三郎に対し、金一二一七万七四九五円及びこれに対する平成八年七月二日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。
二 被告は、原告中西美子に対し、金一二一七万七四九五円及びこれに対する平成八年七月二日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。
第二事案の概要
一 本件は、原告らが、被告に対し、原告らの兄である亡八木稔(以下「亡八木」という。)が交通事故により死亡し、損害を受けたと主張し、損害賠償を請求した事案である。
二 争いのない事実
1 交通事故の発生(以下「本件事故」という。)
(一) 日時 平成八年七月二日午後二時ころ(天候晴れ)
(二) 場所 東京都江東区毛利一丁目二一番先道路(首都高速道路錦糸町ランプ進入口)
(三) 加害車両 事業用大型貨物自動車(沼津一一け一六二三)
運転者 被告
(四) 被害者 亡八木
(五) 事故態様 加害車両が交差点で右折したとき、横断していた亡八木をひいた。
2 責任
被告は、交差点を右折したが、右折先道路をよく見ないで、横断している歩行者の安全を確認しないで進行した過失がある。
したがって、被告は、民法七〇九条に基づき、損害賠償義務を負う。
3 死亡
亡八木(昭和四年六月三日生まれ、当時六七歳)は、本件事故により、胸腔内臓器損傷の傷害を受け、死亡した。
4 相続
原告八木三郎は亡八木の弟であり、原告中西美子は姉の子であり、原告らは亡八木の相続人である。
法定相続分は、それぞれ二分の一である。
三 中心的な争点
過失相殺
損害
第三判断
一 過失相殺
1 被告の主張 亡八木対被告は三〇対七〇亡八木は、横断歩道橋を利用せず、横断歩道のない、交通頻繁な車道を横断した過失がある。
2 原告らの主張
被告は、まったく右折先道路の安全を確認していない。また、横断歩道橋の下の横断歩道のない道路を横断する歩行者がいることは十分に予想できることである。しかも、亡八木は、身体障害者(頭部外傷による左半身麻痺)であり、高齢であるという事情もある。
3 裁判所の認定 亡八木対被告は二〇対八〇
理由は4(事実)と5(評価)に記載のとおり。
4 証拠(甲二の一と二と五、被告の供述、弁論の全趣旨)によれば、次の事実を認めることができる。
(一) 本件事故現場の状況は、市街地であり、交通頻繁であり、舖装され、平たんで、乾燥していた。
被告からの見通しは、前方、右方ともよい。
本件事故現場は、南北道路に、首都高速道路からの出入り口が交差している変型交差点である。南北道路は、全幅員が二八・五〇メートルであり、被告が進行した南行き車線の幅員は約八メートル以上あり、交差点付近では片側四車線となる。
被告が右折をしようとした西方向の右折先道路は首都高速錦糸町ランプ入口であり、その幅員は五メートルである。
この錦糸町ランプ入口付近には横断歩道は設けられていない。横断しようとする歩行者のために南北道路と平行して横断歩道橋が設置されている。錦糸町ランプ入口の両側にはガードレールやフェンスが設置され、歩道から容易に出入りできる状態ではない。
(二) 被告は、南行き車線を進行し、首都高速錦糸町ランプ入口に進入するため、交差点を右折しようと思い、青信号で交差点に進入し、交差点中央付近で一旦停止し、対向車線の直進車両の通過を待っていた。
対向車線の直進車両が減速し、パッシングをしたので、右折をさせてくれると思い、発進して、右折を始めたが、対向車両があるかもしれないと思い、右前方の対向車線を注視していた。
対向車線の中央付近まで進入したとき、加害車両は車体が長く(車長約一二メートル)、対向車線の右折車両に接触しないように、左バックミラーを見て、加害車両左後部の状況を見て、さらに錦糸町ランプ入口方向に進行した。
対向車線を渡り終え、ほぼ右折を完了したとき、右後輪でゴトンと何かの物に乗り上げたような感触があり、右バックミラーで右後方を見たところ、右後輪で亡八木をひいたのを見た。そこで、ブレーキをかけて、停止した。
5 これらの事実によれば、亡八木は身体障害者であったとはいえ、横断歩道がなく、歩行者のために横断歩道橋が設置され、道路の両側にはフェンスやガードレールがあり、首都高速道路の入口で、交通も頻繁であったのであるから、亡八木は、入口に進入してくる車両に十分に注意して、横断をすべきであったということができる。
しかし、これらの状況があるとはいえ、被告は、右折先道路をまったく見ておらず、その安全を確認していないが、きちんと右折先道路を見ていれば、容易に本件事故を回避できたといわざるを得ない。
したがって、亡八木に過失が認められるとしても、被告の過失が大きいというべきであり、亡八木と被告の過失割合は、二〇対八〇と認めることが相当である。
二 損害
1 葬儀費 一〇〇万円
(一) 原告らの主張 一〇〇万円
(二) 被告の主張 争う。
(三) 裁判所の認定 一〇〇万円
証拠(甲一一、一二の一と二、一三、一四、一五の一ないし三、一九、弁論の全趣旨)によれば、原告らは、葬儀費として、すべての領収書があるわけではないが、一〇〇万円以上を支出したと認めることができる。
したがって、葬儀費は一〇〇万円と認められる。
2 死亡慰謝料 一八〇〇万円
(一) 原告らの主張 二四〇〇万円
(二) 被告の主張 争う。
慰謝料請求権は相続されない。また、原告八木三郎は、亡八木と約三五年前に別れたまま音信不通の状態であり、住所も知らなかった。原告中西美子は亡八木を知らなかった。したがって、慰謝料は大幅に減額されるべきである。
(三) 裁判所の認定 一八〇〇万円
証拠(甲二の一三、弁論の全趣旨)によれば、原告八木三郎は亡八木と約三五年前に別れたまま音信不通であり、同原告は亡八木がどこに住んでいるのかを知らなかったこと、原告中西美子は、亡八木と面識がなかったことが認められる。
そうすると、慰謝料は、亡八木の慰謝料と原告ら固有の慰謝料として、一八〇〇万円が相当である。
なお、被告は、慰謝料請求権は相続されない旨の主張をするが、採用しない。
3 逸失利益
(一) 原告らの主張 合計九二三万九一〇〇円
(1) 亡八木は、本件事故当時、身体障害者であり、身障者作業施設である墨田福祉作業所で働き、平成七年には三三万七五四一円の工賃を得ていた。亡八木は平均余命の半分までこの収入を得ることができたから、逸失利益は一一一万二〇二八円である。
(2) 亡八木は、平成七年に、障害年金として一〇五万五四六四円の支給を受けていた。亡八木は平均余命一五・四年の間この年金を得ることができたから、逸失利益は八一二万七〇七二円である。
(二) 被告の主張 知らない。
(三) 裁判所の認定 合計六七八万六三二七円
(1) 証拠(甲一六、一七、弁論の全趣旨)によれば、亡八木は、本件事故当時、身体障害者であり、身障者作業施設である墨田福祉作業所で働き、平成七年には三三万七五四一円の収入を得ていたこと、亡八木は、平成七年に、障害年金として一〇五万五四六四円の支給を受けていたことが認められる。
(2) したがって、亡八木は、工賃として、三三万七五四一円から、生活費として五〇パーセントを控除し、就労可能年数として平均余命一五・五一の半分の七年(ホフマン係数五・八七四三)を乗じた九九万一四〇八円の逸失利益がある。
また、障害年金として、一〇五万五四六四円から、生活費として五〇パーセントを控除し、受給可能年数として平均余命一五年・五一(ホフマン係数一〇・九八〇八)を乗じた五七九万四九一九円の逸失利益がある。
三 損害の合計 二五七八万六三二七円
四 過失相殺後の損害額 二〇六二万九〇六一円
五 損害のてん補
1 てん補 一二八八万四一一〇円(争いがない。)
2 てん補後の残金 七七四万四九五一円
六 弁護士費用 一〇〇万円(主張三〇〇万円)
七 結論
1 損害金残金 八七四万四九五一円
2 法定相続分 各四三七万二四七五円
3 遅延損害金 各四三七万二四七五円に対する本件事故の日である平成八年七月二日から支払済みまで民法所定の年五分の割合による遅延損害金
(裁判官 齋藤清文)